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沖縄には、大きな可能性を秘めた“宝箱”がある。金、銀、銅など、近海の底に眠る鉱物資源だ。しかし開発が順調に進んでいるとはいえず、“宝箱”のふたは今も開けられていない。背景には、環境への影響や技術的な問題に加え、中国の影も見え隠れする。
沖縄の近海、水深700~2000メートルの海底に広く分布する「海底熱水鉱床」。地下のマグマにより重金属を含んだ熱水が噴出し、沈殿してできた鉱床で、銅、鉛、亜鉛をはじめ金や銀など、さまざまな金属成分を豊富に含んでいる。
この鉱床の調査に国が本格的に乗り出したのは平成20年以降だ。28年には鉱床の一つ、伊是名海穴(いぜなかいけつ)の資源量を740万トンと算定。翌年には世界で初めて1600メートルの深海から鉱石を採掘し、水中ポンプで洋上に揚げることに成功した。だが、国が最終目標とする商業化の道筋は、まだ見えてこない。資源エネルギー庁などによると、巨額の資金を要する海底資源開発で採算をとるには5000万トン以上の資源量が必要とされるからだ。
沖縄海域では伊是名海穴のほかにも、久米島沖や伊平屋(いへや)島沖などで有望な鉱床が複数見つかっているが、国は資源量などの詳細を明らかにしていない。
一方、沖縄県内で海底資源の活用方法を研究している一般社団法人「沖縄海底資源産業開発機構」(OSR)の高橋庸正(ようせい)代表理事は、「全体的な資源量が5000万トンをはるかに超える可能性は高い」と分析する。
その上で「海底鉱物資源の商業化は世界に例がなく、実現すれば日本と沖縄の将来を担うだろう」と話す。
開発が進まない中、懸念されるのは中国の動きだ。国が調査を本格化した20年以降、中国の海洋調査船が日本の排他的経済水域(EEZ)内で、ワイヤを引きながら航行する様子が繰り返し確認されている。
海上保安庁が26年、久米島沖で国内最大規模の熱水噴出孔を確認したと発表し、巨大な鉱床発見への期待が高まると、EEZ内に出没する中国船が急増。同庁によると日本の同意を得ずに調査活動などを行った件数は、27年には過去最多の22件に上った。
不当な活動はその後も続き、31年(令和元年)にも5件確認されている。
強引な海洋覇権政策を進める中国は、日本のEEZを認めていない。沖縄県内では、「このまま開発が遅れれば中国に先手を打たれ、尖閣問題のような状況に陥る恐れもある」(自民党県議)との声も上がる。
国は、令和4年度にこれまでの調査結果を総合的に検証し、新たな計画を発表する方針だが、環境保全対策などの課題もあり、具体的な開発目標を盛り込めるかどうかは微妙だ。
海底の“宝箱”を開けるには、どうしたらいいのか。そのカギは「国家が持っている」と、東海大の山田吉彦教授(海洋政策)は言う。
「日本は現在、鉱物資源をほとんど輸入に頼っている。海底から自前で採掘できれば、その国益ははかり知れない。自国の海底資源を守り、活用するのは国家の責務だ。さまざまな課題はあるが、いまは日本の覚悟が問われている」
鉱床のある海域を、第二の尖閣問題にしてはならない。
筆者:川瀬弘至(産経新聞)